「販売態勢高度化支援サービス」の活用でFDを「投信ビジネスの推進力」に変える
三菱アセット・ブレインズ株式会社
取締役社長 鱸 正明(すずき まさあき)
「顧客本位の業務運営」、フィデューシャリー・デューティー(FD)の徹底が求められている中、投資信託の販売会社も変化を余儀なくされている。背景にある問題として、「1800兆円と言われる日本の個人金融資産の大半が預貯金にとどまり、経済成長に活かされていない点がある」と指摘するのは、三菱アセット・ブレインズ(MAB)の取締役社長である鱸 正明氏(すずき まさあき)。「国民の豊かな資産形成という側面ととともに、投資資金を循環させて経済を活性化するという意味でも、従来のビジネスで変えるべきところは変え、投信市場を発展させていく必要があるのでしょう」。
特に銀行にとってはマイナス金利の導入以降、収益環境が悪化しているだけに、投信市場の成長は安定的な収益源へと直結することになる。だからこそ、MABではFDを単なる「対応」と捉えるのではなく、「投信ビジネスを推進する力」に変えるべきだと訴え続けてきた。
FDの確立に当たっては外部機関の積極的な活用を
では、従来の投信ビジネスの問題とは何なのか。最大の課題は、分配金に偏重した売れ筋商品、さらには回転売買が主となってきたことによって投信残高が積み上がらず、投資家の裾野も広がってこなかったことであるのは言うまでもない。その脱却に向け、指針となるのは「顧客本位の業務運営に関する原則」として金融庁が公表した7原則だが、これはあくまで原則(プリンシプル)であり、具体化については各金融機関が自ら考えなければならない。いわゆる「ルールベースからプリンシプルベースへ」の転換が求められているわけだ。
とは言え、「私自身もともと銀行員でしたから、これまでのルールベースを改めよと言われても、多くの皆さまが戸惑われるのは非常によく理解できます」と鱸氏。原則と併せて公表された「『顧客本位の業務運営に関する原則』に向けた取組み」では、取組方針とともに成果指標(KPI)の明示も求められ、すでに多くの銀行、証券会社のホームページなどで発表されているものの、KPIの公表にまで踏み込まなかったところも少なくない。金融機関がそのすべてを自前で行うのは、限界があるのも確かだ。
そこで活用を検討したいのが外部のコンサルティング会社だが、MABではFDの定着に向けた取り組みを積極的に支援してきた。「7原則がビジネスモデルの変革に通じるのは間違いありませんが、①全体戦略、②商品戦略、③販売・サービス戦略、④人材育成・制度戦略、の4つに整理して考えることが重要」(鱸氏)だとの考え方のもと、それらの戦略構築をサポートする「販売態勢高度化支援サービス」を提供している。
③の販売戦略については、同社が提供する預り資産営業支援システム「ASSET DIRECTION®」シリーズを用いることで、顧客の預り資産全体を「見える化」でき、FDに則った販売プロセスの確立が可能。すでに20行近い地方銀行での導入実績があり、営業支援システムのデファクトスタンダードになりつつある。重要度を増しているネットチャネルに対しても、ロボアドバイザーサービス「ミライノシサン」を三菱UFJ信託銀行と共同で開発。すでに千葉銀行が導入し、複数の大手地銀でも展開される見込みだ。ASSET DIRECTION®とも連携できるという。
顧客の「購入代理」窓口として信頼され、選ばれる銀行に
また、②の商品戦略については、専門的な知見が求められ、膨大なデータの解析も不可欠となるだけに、金融機関が最も頭を悩ませている課題かもしれない。その点、投信評価業務を中核としてきたMABには、国内最大規模のファンドアナリストを抱え、1998年の設立以来、定性、定量の両面からファンド評価を行ってきた実績があり、近年ではその本数は2000本を超える。そのノウハウに基づいて提供されているのが「MAB商品コンサルティング」だ。7原則のうち、「顧客の最善の利益の追求」「利益相反の適切な管理」「手数料等の明確化」「重要な情報の分かりやすい提供」「顧客にふさわしいサービスの提供」の5つに資するサービスであり、「デューデリジェンスサービス」「ラインアップ分析サービス」「モニタリングサービス」の3つで構成されている(下図参照)。
まず「デューデリジェンスサービス」は、販売会社が新たに商品を採用する際、そのクオリティを確認するとともに、販売時の留意事項を明らかにしてくれるもの。具体的には、MABのファンドアナリストがインタビューやアンケートに基づき、「運用会社の基盤・ガバナンス」「運用力」「商品性・コスト」「販売における留意事項」などを調査する。言わば「顧客本位の商品採用」のベースとなるサービスだ。
次に「ラインアップ分析サービス」は、現在のラインアップが顧客に適切な投資機会を提供できているのか、実際の販売データを用いて販売残高やキャッシュフローなどを投信市場全体の動向と比較しながら分析するもの。ラインアップの課題を洗い出し、販売戦略との整合性を確認した上で、販売会社は新規採用など改善に向けたアクションにつなげることができる。
最後の「モニタリングサービス」は、顧客に提供している商品の品質に変化はないか、継続的にモニタリングするサービスだ。投資信託は運用体制の変更や投資環境の変化により、品質が劣化する場合がある。だからこそ、採用して終わりではなく、中長期にわたるメンテナンスが欠かせないわけだが、販売会社が自ら態勢構築するのはハードルが高い。MABのような専門機関の活用が必須になると言ってもいいだろう。
「金融商品に情報の非対称性が存在するのは事実。ですから販売会社は『運用会社の販売代理』ではなく、『顧客の購入代理』というスタンスに立つのがFDの実践と言え、お客さまに代わって適切に情報を分析し、フィードバックする必要があるのです」(鱸氏)。それができて初めて、顧客から信頼され、選ばれる銀行になるというわけだ。
FDは日本経済の発展という観点からも求められているものであり、銀行にとっては安定的な収益基盤の確立、長期の信頼関係の構築、さらには働く行員のやりがい、モチベーションアップにもつながる。受け身の姿勢で「対応」するのではなく、持続的な成長へのドライバーと捉え、「経営としてコミットし、推進していくべき」と鱸氏は強調する。MABの設立趣意書には、「投資信託は個人の金融資産形成の担い手」「本邦における投資信託市場の大いなる成長に貢献」と記されており、1998年の設立当初からFDの精神が先取りされ、DNAとして受け継がれてきたと言っても過言ではない。金融機関が「顧客本位の業務運営」を確立させるための、まさに頼りになるパートナーとなるはずだ。
*金融情報誌『Ma-Do』(Vol.47)2017年8月発行の記事に加筆のうえ掲載しています。
*ASSET DIRECTION、ミライノシサンは三菱アセット・ブレインズ株式会社の登録商標です。